うららかな春の午後だった。
柔らかな木漏れ日が公園の小道に揺れ、風がページをそっとめくるたび、男は静かに指先でそれを押さえた。ベンチに腰掛け、読みかけの小説に没頭している。

視線を上げれば、目の前には小さな世界が広がっていた。
弾むボールを追いかけて笑い声をあげる子どもたち。
芝生の上で談笑しながら、愛犬のリードを緩める家族。
そのどれもが、春の陽気に溶け込むように穏やかで、平和そのものだった。

男はふと微笑み、再び本へと目を戻す。
――その瞬間だった。

風を切るような足音が近づき、茶色い影が視界を横切った。
一匹の柴犬が、まるで戦場へ突撃する兵士のような勢いで駆け抜けていく。

続いて、公園全体を震わせるようなトイプードルの悲痛な声が響いた。
その声は、春の空気を一瞬で凍らせる。

次の瞬間、公園は地獄絵図と化した。
逃げ惑う子犬たち。
その後ろを、獲物を追うかのように猛然と走る柴犬――マチ。

男のささやかな午後は、木漏れ日の優しさごと現実に引き戻される。
悲しげな子犬たちの叫びと、柴犬の野太い唸り声が、公園中にこだまし続けていた。